ビジョンテック

真山美雪の「この人に会いたい」スペシャル対談第2回記事一覧へ

「国際人の育成をめざして」 第2回:日本サッカー協会(JFA)専務理事 田嶋幸三氏

人材育成コンサルタントの真山美雪が、その人らしい輝きを持つ方々にお話をうかがう「この人に会いたい!」。第2回は、6月のサッカーワールドカップアフリカ大会開催を目前に控え、海外と日本を行き来し多忙な日々を送る日本サッカー協会 専務理事、田嶋幸三氏にお話をうかがいました。人材教育にも精通する田嶋氏とは、国際化社会の中で日本人はどうあるべきかなど、話はおおいに盛り上がりました。

プロフィール

田嶋幸三氏
(たしま・こうぞう)

日本サッカー協会専務理事。JFAアカデミー福島スクールマスター。世田谷区立用賀小学校、用賀中学校卒業。浦和南高校では主将として、全国高校サッカー選手権で優勝。筑波大学大学院卒。その後、古河電工に入社、サッカー日本代表フォワードとして活躍。

日本サッカー協会(JFA)専務理事 田嶋幸三氏

個々の行為に、ロジカルな意思と 明確な根拠がある欧米文化

真山:もうすぐサッカーワールドカップ「アフリカ大会」ですね。
日本の選手にとって、アフリカという場所は、試合するには有利ですか。それとも不利なのでしょうか。

田嶋:涼しい場所ですから、気候の面では日本人の体力が生かしやすいといえるでしょう。日本の選手は暑さの方が苦手ですから。高地なので、5月の末から大会直前まで、スイスで高地トレーニングを行います。

真山:各国のトップ選手が集まる世界的な大会であるワールドカップでの試合を経験することは、日本の選手にとっても大いに刺激になるのでしょうね。

田嶋:ええ、そのとおりです。選手の気持ちや技術のプルアップ効果も期待しています。日本代表の選手たちが世界の強豪と試合をするということは、世界のレベルを体験できる良い機会です。代表がレベルアップすることで、日本のサッカー選手全体のレベルが引き上げられると思います。

真山:『「言語技術」が日本のサッカーを変える』で田嶋さんが書いていらっしゃいますが、海外と日本では、選手の考え方やプレーのスタンス、コミュニケーションの取り方などに、ずいぶん違いがあるようですね。

田嶋:大学卒業後とその後に2度、ドイツへ留学しました。そのときに海外と日本の差を目の当たりにした経験は、今でも大きく影響しています。

ドイツでは、5歳の子供さえ、自分の考えをしっかりと持ち、気持ちをロジカルに伝達する教育をうけています。何をやっても「そこには理由があるはずだ」と必ず意味を問われるのです。サッカーでも、個々のプレーに理由が求められる。失敗したら、「どういう目的で向こうに蹴ったのか」と、監督はミスした事実より、そのプレーの意味を問う。子供たちも、「ピーターは足が速いから、パスを受けてくれると思って蹴った」と、はっきり自分の考えを主張します。

真山:たしかにそうですね。私も、米国に留学したり、その後、主人の赴任で欧米で生活し、いろいろな場面でその違いを実感しました。

子供の頃からピアニストを目指してレッスンを受けてきた経験があるのですが、欧米では「どういう意図で弾いているのか?」と常に理由を質問されました。

察する文化は日本の良さ。これからは思考の言語化も必要に

田嶋:教育やコミュニケーションの取り方も海外と日本ではずいぶん違うなと思います。息子は小学校の低学年までマレーシアのインターナショナルスクールに通っていました。その経験からも、海外では「察する」文化がないと感じました。

日本では電話に子供が出た際、「お母さんいる?」と聞けば「母にかわります」となるでしょう。でも、海外では「いますよ。それで?」となる。

サッカーでも、自分を主張できるかどうかが選手に選ばれるかどうかという結果に直結しています。意思を主張しなければ、存在すら認識されません。

サッカーに限らず、いまや日本人が世界で活躍していくにはグローバル化は避けて通れませんから、少なくとも欧米流のコミュニケーション術を知っておく必要があるでしょう。

真山:たしかに。私も娘を10歳までロンドンで育てて感じたのですが、文化的背景が異なると対応が違うなと思う場面が多々ありました。欧米では個性を重んじるし自分の意見をはっきりと言えなくてはいけない。

田嶋:そうなんですよね。サッカーでも、日本チームの得点力に課題があるのは、控えめで謙虚な性格がマイナスに働くのではないかと思うことがあります。

ロジカルに伝えるスキルを高め グローバルな人間力を磨く

真山:一昨年から、九州大学大学院で「ヒューマンスキル」と「コミュニケーションスキル」「キャリアディベロップメント」など、研究者に対して、グローバルな人材を育成するための講座で講師をしています。

やはり、国際レベルの視点で見た場合、自分の主張や気持ちを相手にしっかりと表し、伝えるためのグローバルなコミュニケーションスキルは本当に必要ですね。

田嶋:また、とくに重要だと思うのが、論理的に思考し、的確に伝えるという発想です。

サッカーでは、プレー中、瞬時に状況を的確に掴み、自分自身で判断を下し、さらに相手に自分の思いをきちんと表現し伝達することが求められます。
日ごろから、言語技術を身につけて、しっかりとロジカルに相手に伝えることを習慣にしていなければ、思い通りのプレーをすることはできません。

言語技術を身につけるには「教育の機会」がなければ難しいでしょう。海外では、サッカーに関してもエリート教育が徹底しており、トップレベルの選手たちは国を代表する存在として教育を受け、その社会的責任も理解しています。つまり、選ばれた存在としての意識からして違うのです。そのような危機感から日本サッカー界における教育機関整備への取り組みにつながり、JFAアカデミー福島(※)の設立に至ったのです。

真山:たしかに、イギリスなどでパブリックスクールに通う子供たちは、小さい頃からエリートとしてのジェントルマン教育を受けていますね。
一方、日本では部活の帰りらしき高校生が、大勢で電車の座席を占領しているのを目にすることがあります。スポーツマンとして毅然とマナーを守って欲しいですね(笑)

田嶋:学校の部活動のシーンや、監督、先輩の前でのみ、ルールや礼節を守ってきちんとすればよいと思っている学生が多いですね。
でも、そこを離れた社会でも通用するマナーなくしては、真のスポーツマンとはいえないのです。
ドレスコードひとつとっても、学校生活で制服のルーズな着かたが習慣化していては、学生の方もそれでよいと勘違いしてしまいますよね。

欧米を真似ず日本の良さを生かす 統率力、組織力を武器とせよ!

田嶋:ただ、何でも欧米の真似をするのがよいという意味ではありません。日本人らしさを強みにして欲しい。例えば、日本人のよさとして、規律は守るという意識や、集団で一致団結する能力の高さがあげられると思うのです。サッカーでも、組織力をいかしつつ、個の能力を高め、コレクティブなチームを構成することができれば、日本はとても強くなれるのではないでしょうか。

真山:そうですね。日本人としての礼節を重んじるマナーや立ち居振る舞いの上に、世界で通用する人間力を身につけてこそ、グローバル人材といえるでしょう。

ところで、私たちは、世田谷の用賀小学校ではクラスもずっと一緒。中学までの9年間、同じ学校でしたね。田嶋さんは当時からサッカーがとても上手でした。一緒にサッカーをしていたとき、田嶋さんの蹴った強いボールをみぞおちに受けて、私がその場で倒れて、先生も同級生もあわててしまったことがありました。小学校の卒業アルバムではサッカークラブの写真に一緒に収まっています(笑)

田嶋:担任だった百済先生がサッカーを教えてくれたのが今の僕に大きな影響を与えています。小学生の頃の真山さんは、とても活発な女の子でしたね。

真山:田嶋さんは、小学校のときからスポーツ万能で、脚も速くて、一緒に混合リレーの選手として走ったこともありましたね。スポーツだけでなく、小学校は児童会長、中学では生徒会の副会長として活躍していました。一緒に学級委員や代表委員もしましたよね。

これからも、日本のサッカー界をリードするおひとりとして、益々のご活躍をお祈りしています。

(2010年4月13日 日本サッカー協会にて)

※JFAアカデミー福島とは、日本サッカー協会(JFA)によって、福島に設立されたサッカーのエリート育成を実践する教育機関。

真山美雪

田嶋さんとは、お互い海外から帰国し、再会してからは、家族ぐるみのおつきあいをさせていただいています。誠実で謙虚、控えめで、つねに高い志を胸に、物事に取り組まれる田嶋さん。お互いに良い刺激を与えあう、大事な友人のひとりでもあります。

対談にうかがったのは、ちょうどサッカーワールドカップ「アフリカ大会」まで約1ヶ月と、お忙しい時期。当日は、分刻みのスケジュールにも関わらず、疲れもみせず、笑顔で対応してくださいました。この後も、世界各地を飛び回り、精力的に活動されるとのこと。

日本代表チームの健闘をお祈りするとともに、田嶋さんのご活動がこれからも多くの実を結びますことを願っています。

株式会社ビジヨンテツク代表 真山美雪

バックナンバー